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概要  
昨今、韓国の電子政府を推進する施策が世界から注目を集めている。特に税務分野では電子化が進んでおり、現金領収書制度などの特徴的な制度が推進を後押ししている。そこで、現金領収書制度の設計者でおられる、大韓民国国税庁電算情報管理官室の劉在哲氏と韓国の電子政府に知見の深い、イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長の廉宗淳氏にお話を伺った。   
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地域サービス特別号7 2010年6月号


国民視点の韓国電子政府
−現金領収書制度設計者に伺う電子税務サービス−


−劉 在哲 大韓民国 国税庁電算情報管理官室−

−廉 宗淳 イーコーポレーションドットジェーピー株式会社 代表取締役社長−

劉在哲氏と廉宗淳氏

1.国際的な評価が高まる韓国電子政府の現状

国連ランキングで見る韓国電子政府(※注1)

国連の電子政府発展水準ランキングにおいて、韓国は2008年には7位でしたが、最新の2010年では1位に上がりました。これは、国連の電子政府ランキングが、Webの活用状況、インフラの整備状況、人的資源など、実際に利用者の利便性に直結する要素を指標にしていることと、韓国政府が国民を利用者(顧客)として捉え、利便性を向上させるという、国連の指標と同様の視点で電子政府を推進し、国連にアピールしていることに起因しています。

※注1:韓国電子政府:韓国において、「電子政府」は、電子政府と電子自治体を一体的に指し示す。

行政サービスの電子化

電子政府の推進によって、実際の利用者である国民の視点から見た行政サービスの質も向上しました。例えば、昨年は、銀行のシステムと役所のシステムを連携させたことによって、銀行で融資を受ける際に必要だった各種証明書が不要になりました。また、今年実証実験が始まるのですが、今後は大学入学時に高校の卒業証明書が不要になります。これは学校のシステムと住民登録電算簿(日本で言う住基ネット)のシステムが連携することで実現するサービスです。

国を挙げての電子政府推進

韓国で電子政府が推進された背景には、金大中大統領と盧武鉉大統領が電子政府推進を国政課題として掲げ、実行してきたことが上げられます。15代の金大中大統領 (在任期間:1998−2003) は、大統領就任時に「私の任期中に韓国国民を世界で最もインターネットを上手く使える国民にする」と宣言し、各種手続きや証明書の発行、税金、調達、通関などの一部行政サービスを電子処理出来るようにし、韓国電子政府の基盤を作りました。16代の盧武鉉大統領 (在任期間:2003−2008)は、「電子政府の基盤は出来たので、サービスを高度化する」と宣言し、国民視点の観点からのサービスの連携や統合を目標とする電子政府ロードマップを策定、31項目の優先推進課題を掲げ、電子政府の高度化を推進させました。また、現在の李明博政権においても、電子政府を国民視点で高度化させることを目標としたマスタープランが策定されています。

電子政府推進のポイント

とかく電子政府の積極的な推進とセキュリティの確保はトレードオフの関係だと考えられがちですが、私たちは、決してトレードオフの関係ではないと考えています。電子政府の推進に必要なのは、セキュリティを弱めることではなく、利用者拡大のために何をするべきかを見極めることです。実際に日本においても、情報漏洩事件は起こっているとは思いますが、それはデータを格納する側で何重にも厳重にセキュリティをかけているのにも関わらず、データを扱っている側で漏洩していることがあるからです。韓国でも情報漏洩事件は起こっていますが、データを格納する側で暗号化しているので、重大な事件に繋がることは少ないです。言い換えれば、情報が漏洩しても意味がない仕組みを構築し、情報漏洩事件を減らしています。電子政府の推進とセキュリティの確保がトレードオフの関係ではないという先には、ユニバーサルサービスを作るという観点において、国民を顧客と捉え、セキュリティリスクを負わない程度に、真に必要なサービスを顧客視点で作っていくことが重要だという考えがあります。

2.電子税務サービスの推進

電子税務システムHome−Tax

韓国電子政府で最も普及率の高い分野の1つが税務分野です。現在国税庁にはHome−Taxというシステムがあります。Home−Taxとは、一般の国民や企業が、インターネットを通じて国税の申告と納税を出来るシステムで、2002年4月からサービスが開始され、順次、申請可能税目を拡大させていきました。

Home−Taxは、主に電子申告、電子民願 (※注2) 、電子告知、電子納付の4つのサービスから成っています。電子申告は、11の税目について電子申告できるサービスで、このシステムを利用して税務申告することによって、事業者と税務代理人は税額控除を受けることが出来ます。電子民願は、35種類の各種証明書の出力、109種類のインターネット受付、41種類の処理プロセスの公開が出来るサービスです。韓国では、各種証明書を自宅のプリンタで印刷し、実際に証明書として利用できるのです。電子告知は、納税者に電子メールや携帯メールのSMSを用いて、税務告知の有無を事前に案内するサービスです。電子納付は、税金の納付書の自動作成や銀行から国庫への自動振込みの出来るサービスです。

※注2:民願:国民が、政府・自治体等の政府機関に対して申請・申告を行うこと、各種証明書の発行を行うこと、苦情や要望、意見などを表明すること、あるいは相談への対応を求めることなどを意味する。

Home−Tax導入の背景

このような利便性の高いHome−Taxは、納税者の要望と国税庁における必要性の2つの側面から導入が検討されました。韓国では各種電子サービスが非常に発達しているので、納税者からは税務行政に関しても同レベルのサービスを求める声が強く、税務行政にシステムを導入する必要がありました。一方、国税庁の立場では、業務効率化と不正の排除の2つの観点からシステムを導入する必要がありました。国民は多くのサービスを望んでいますが、国税庁の人手には限界があります。そこでシステムを導入し、税務行政の業務効率化を図ることで納税者の要望に応えようとしました。また、税務署の職員と納税者との間には、税務不正が起こる可能性があります。その可能性を排除するためにはお互いに接触させないことが重要で、その点からもシステムの導入には意義がありました。

Home−Tax利用率向上のポイント (1) −個人認証プロセス−

Home−Taxの加入者数は毎年伸び続けています(図1参照)。これは様々な顧客層に対して、満遍なくサービスを提供するために、国税庁が多くの効果的な工夫を施したからです。Home−Taxを利用するためには、個人認証が必要です。日本の国税庁の電子税務行政では個人認証がボトルネックになっていると言われていますが、韓国においては公的個人認証書が普及していることと、手続きの種類によってはワンタイムパスワードで個人認証が受けられることから、普及に対するボトルネックにはなりませんでした。

図1:Home−Tax加入者数

Home−Tax加入者数

これからの電子政府・電子自治体を考えるシンポジウムにて劉在哲氏発表資料より抜粋)

Home−Taxの個人認証プロセスは、公的個人認証書発行機関が発行する公的個人認証書を持っていない人が、わざわざHome−Taxのために取得しなくても利用できるような工夫を施しています。電子申告以外の税務業務を行う場合には、公的個人認証書が必要ですが、公的個人認証書発行機関が発行するものでも、各銀行がインターネットバンキングの安全性確保のために設立した認証局が発行するものでも利用が可能です。韓国の公的個人認証書は物理的なカードがあるわけではなく、パソコンに入れておいたり、USBメモリで持ち運んだり出来るソフトとして存在しているので、利便性が高く、広く普及しています。また、国税庁のデータベースから情報を引き出すときには高いセキュリティをかけていますが、電子申告など、納税者自らが情報提供するときには、国税庁にとってはリスクが低いので、公的個人認証書が無くても、ワンタイムパスワードの発行のみで利用出来るようにしています。

Home−Tax利用率向上のポイント (2) −システム利用の動機付け−

また、Home−Tax利用率向上の要因として、ほぼ全ての税務会計パッケージソフトが国税庁のHome−Taxシステムに連動していることも上げられます。システムを連動させることによって、税務会計パッケージソフトを使用している企業は、転送ボタンを押すだけで、Home−Taxにデータを送信することが出来ます。そのためHome−Taxシステムを利用するメリットが大きくなっています。また、個人や中小零細企業に関しては、税務会計ソフトを使用していないことが多いので、Home−Taxのホームページ上で簡単に入力すれば済むようにシステムを改良しました。

特に2008年から2009年にかけては、加入者数が大幅に伸びました。韓国では2008年にガソリン価格が高騰し、政府はその対策として、ガソリン税払い戻しの施策を行いました。その際、国税庁では顧客層の拡大のチャンスだと捉え、払い戻し業務を請け負い、Home−Taxを利用して申請できるようにしたところ、個人のHome−Taxへの加入者が急増しました。このように国税庁では、利用率をあげるために国民目線で顧客層を広げる努力をしてきたのです。

3.税源透明化のための施策

現金領収書(※注3)制度

また、国税庁は現金領収書制度を導入しました。現金領収書制度とは、2003年に企画、2004年末にシステムが完成し、2005年からサービスを始めた制度で、現金取引情報を購入者情報も含めて、国税庁が管理する制度です。具体的には、消費者は商店での購買時に個人認証を受けて、現金領収書を受け取ります。商店はその現金取引情報を、現金領収書事業者を通じて国税庁に通知します。国税庁は現金取引情報を集積することで、世の中の現金売上を透明に管理することが出来ます。(図2参照)

図2:現金領収書制度のサービスの流れ

現金領収書制度のサービスの流れ

これからの電子政府・電子自治体を考えるシンポジウムにて劉在哲氏発表資料より抜粋)

制度導入の背景には、現金取引の多かった韓国において、税源を透明化し、公平課税の基盤を作りたいという国税庁の意図がありました。

※注3:現金領収書:現金取引の際に購入者が発給を受ける領収書のこと。現金で購買したことの証明で、年末調整時の所得控除の裏づけとなっている。

現金領収書制度推進のための施策

制度推進のために、消費者、商店、現金領収書事業者全てにインセンティブを付与する仕組みや、個人認証に携帯番号を利用できる仕組みの制度設計をしました。

各関係者の税額控除のインセンティブは以下のように制度設計しました。

  • 消費者は、現金領収書の受取額及びクレジットカード使用金額の20%を年間500万ウォンの範囲内で、年末調整時に所得控除できる
  • 商店は、付加価値税の申告に当たって、現金領収書発行額の1.3%を年間700万ウォンの範囲内で税額控除できる
  • 現金領収書事業者は、1件当たり22ウォンの税額控除できる

また、様々な立場の人に門戸を広げないと利用率が上がらないという観点で、個人認証に現金領収書カード、住民登録番号、クレジットカード番号などを使えるようにしました。その後更に利用率を上げるために、国民の利便性を最重視した制度を検討し、個人認証に携帯番号を使えるようにしたところ、現金領収書制度は爆発的に普及しました。

4.国民視点のシステムを作る政府の強い意志

政府主導のシステム構築

国民を顧客として行政サービスを展開するためには、韓国政府が強いリーダーシップを持ってシステム構築をしていかなければなりません。韓国ではシステムを構築する際、制度設計からシステムの仕様設計、RFP(※注4)策定までの工程を全て政府の役人が行います。ベンダーに任せるのは、ハードウェアやサーバーのメモリをどれくらい確保するかなど、ごく一部だけです。役人がこのような専門性の高い業務を行えるのは、SI企業など民間企業出身者の採用を強化し、最新のITトレンドに対応しているからです。日本のシステム構築とは状況が違うと思うので、一概には言えませんが、政府自身に強い意志とリーダーシップがあることが重要です。

※注4:RFP:Request For Proposalの略。システム導入の際にベンダー候補先に具体的な提案を依頼する文書。その際、システム仕様など詳しい調達条件が記載されている。

韓国政府におけるPMO

また、韓国政府には、国家的にシステム導入を支援するコンサル機関があります。職員約150名のほとんどが法律、行政、税務、ITなどの博士号取得者で、プロジェクト管理、システム監査などといったPMO(※注5)のような業務を行っています。これらのシステム構築の制度によって、顧客である国民にとって利便性の高いシステムを低いコストで導入することが出来ています。

※注5:PMO:Project Management Officeの略。組織内のプロジェクトを支援する専門部署。具体的には、組織内のプロジェクトマネジメント手法の標準化、品質管理などを行っている。

5.最後に

今までお話ししてきたように、韓国における電子政府は、国民を常に顧客として認識し、国民視点で行政サービスの利便性を向上させることを目的として推進しています。この目的を達成するために、大統領以下、韓国政府が強い意志とリーダーシップを発揮することで、トップダウンで電子政府を推進させ、国民から見た行政サービスの質の向上に直結していると感じています。また、情報漏洩やセキュリティは確かに重要な問題です。しかし、トレードオフではないので推進を妨げる要因ではありません。本質的な問題解決をしながら制度やITを活用した仕組み作りを行うことで、利便性と堅牢性を両方確保できるサービス提供が実現できると考えています。日本における電子行政については、事情やおかれている状況が異なる点は多々あるかと思いますが、国民を顧客と捉え、国民視点の考え方を浸透させる事に関しては、電子政府を推進していく大きな要素であると言えるのではないでしょうか。是非とも、国民にとって使い易い行政サービスをこれからも推進して頂きたいと思います。


【2010年6月 執筆・編集:株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータ経営研究所】

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