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ドイツではスマートグリッド社会の実現に向け、産学官の提携から企業が独自に推進するものまで多様な実証実験が行われている。中でも国家戦略『E-Energy』で助成するプロジェクトは、分散電源の統合と最大活用、リアルタイムの需給制御、余剰電力取引市場の構築等に焦点を当て、新時代のエネルギー需給システムの開発に総合的に取り組むものとして注目に値する。また、ニュービジネスの商機を狙う企業の動きも加速している。
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欧州マンスリーニュース 2010年3月号
『E-Energy』ドイツのスマートグリッド戦略−情報通信技術を基盤にした未来のエネルギーシステム構築へ−スマートグリッド国家プロジェクト『E-Energy』世界屈指の技術先進国であり、欧州最大の経済国であるドイツにとって、環境性と経済性を確保した上でエネルギーの長期的な安定供給を実現することは、国を挙げての最優先課題である。2006年4月に開かれた国家エネルギーサミットで、政府(メルケル首相、グロース経済技術相、ガブリエル環境相)と民間(エネルギー業界、研究機関、労組、環境保護団体、需要家)の代表者がこの問題について議論し、新たなエネルギー政策への着手を決定した。同年12月に開かれた国家ITサミットでは、メルケル首相がICTを採用した刷新的エネルギーシステムの開発・構築を目指す国家プロジェクト『E-Energy』の立ち上げを宣言した。これはドイツのテクノロジー戦略と表裏一体のエネルギープロジェクトとして、経済技術省と環境・自然保護・原子炉安全省が共同で推進している。政府は、デジタル化した情報をリアルタイムで双方向交換することにより、エネルギー供給システム全体をオンラインで管理制御して需給バランスの最適化を図るという『エナジーインターネット(Internet of Energy)』構想を実現させるため、民間プロジェクトに4年間で約74億4千万円(※注1)の助成金(※注2)を提供することを決めている。産業界の負担分を合わせた投資額は、約173億6千万円に上るとしている。 経済技術省は2007年4月、助成プロジェクトを選出するため、全国からスマートグリッドプロジェクトを公募した。(1)オンライン電力市場(E-Energy Marketplace)の創出、(2)電力システムのコンピュータによる管理制御、さらに(1)と(2)をネットワーク化するという3つの選考基準に基づき、22の応募の中から最終的にModellstadt Mannheim、RegModHarz、E-DeMa、eTelligence、MEREGIO、SmartWattsという6つのプロジェクトが選ばれた。これらのプロジェクトは、モデル地域としてエネルギー需給最適化を実証実験により具現化するという本来の課題を満たすだけでなく、コンセプトが再生可能エネルギー利用拡大とCO2削減という国の環境政策目標の達成に貢献し、新市場と雇用を創出するビジネスモデルであることも証明しなければならない。各プロジェクトは、2008年秋に公式に活動を開始した。現在、発電から消費にいたる電力サプライチェーンの統合的ソリューションとなるシステムを開発し、実証実験の段階に入った。2012年、政府は、実地テストの結果に基づいて、スマートグリッドの具体的提案を行う予定である。 『E-Energy』は、モデルプロジェクトの助成を通してベストソリューションの集成を促進するだけでなく、移転可能な知識の獲得、新しいノウハウの速やかな交換ネットワークや安全性、データ保護及び互換性等情報の流通に関する課題を解決するための協働基盤の創出等、スマートグリッド構想の基礎固めに必要となる補完的活動にも注力する。例えば、補助研究の促進や、最終審査で落選したプロジェクト等、助成対象となっていないプロジェクト(※注3)との情報交換、さらにはEUなど国際レベルでの協力も推進する。2009年11月に開かれた第1回『E-Energy』会議ではスイスとオーストリアの事例も紹介して、三国提携プログラムに着手することを発表した(連邦経済技術省2009年11月26日付プレスリリース)[独語サイト]。 参考サイト:経済技術省『E-Energy』オフィシャルサイト[英語サイト] 連邦経済技術省作成パンフレット:E-Energy−ICT based Energy System of the Future[英語:PDFファイル]など参照 ※注1:本原稿では、1ユーロ=124円で換算している。 ※注2:経済技術省から49億6千万円、環境・自然保護・原子炉安全省から24億8千万円。 ※注3:deCide(ドレスデン)、EnTradeIT(ベルリン)、EquiKom(ニュルンベルク)、OPTIFLOW (バイエルン州南部アルゴイ地方)、SPREE(ケルン)、Uckermarkt Virtual Power Plant(ベルリン北部ウッカーマルクト)。 モデル地域プロジェクト再生可能エネルギーを中心とした分散電源を主要な電力ネットワークに統合し、生産者と消費者が情報を双方向交換できる電力ネットワークシステムを構築するという共通課題のもと、6つのモデル地域プロジェクトは実施されている。これらのプロジェクトは、それぞれ特定の課題に対応しつつ、電力需給バランスを最適化し、省エネ・コスト削減を実現するシステムの開発に挑戦している。プロジェクトでは電力会社、地元公益事業者、大小民間企業、学術研究所、大学などが協働している。 マイクロパワーをネットワーク−Modellstadt Mannheimプロジェクトが実施されるマンハイムは、ドイツ南西部のライン川とネッカー川に挟まれた温暖な地方にある人口30万人の都市で、ブロードバンドなどスマートグリッド構築に必要な環境が整備されている。同プロジェクトは、エネルギーの双方向コミュニケーションを実現し、サービス向上に重きを置いた電力システムの構築を目指し、地元公益サービス会社のMVV Energie、ドレスデン市営公益会社DREWAG、IBM Deutschland(ビジネスコンサルティング)、ifeu(環境保護研究所)、フラウンホーファー研究所IWES(風力技術、エネルギーシステム)、izes(ニューエネルギー技術およびシステムの研究開発)、Papendorf Software Engineering(分散電源管理ソリューションの開発製造に特化する中小企業)、Power Plus Communication (ブロードバンドとパワーライン情報網技術で欧州大手企業)、デュイスブルク・エッセン大学(送電・貯蔵研究)からなる。同プロジェクトの焦点は、分散電源(風力、太陽光、コージェネレーション等)を備えた自産自消型“マイクロパワーセル”(※注4)を統合した電力ネットワークの構築と、電力情報の提供・管理システムである“エナジーバトラー(EnergyButler)”の開発にある。 2009年10月末にスタートした実証テストの第1フェーズでは、まずMVVの顧客であるテスト家庭にスマートメーター等の技術的設備を設置する。スマートメーターによる電力消費量の自動読み取り、インターネット経由での電力消費量・発電量の確認、時間帯で変動する電力価格に応じて電力消費を誘導させるエネルギーマネジメントの機能テストを行う。テストの規模は今年初めの200所帯から2011年には1,500所帯に拡大する予定である。第2フェーズの課題は“エナジーインターネット”の構築で、顧客が電力会社と価格交渉できるバーチャルマーケットに取り組む。ドイツ東部のドレスデン市でもDREWAGを通して実証テストを行う計画で、実施規模は一般家庭のほか学校、病院、事業所など両市合わせて最終的に約3,000の参加数に拡大される予定である。 参考サイト:プロジェクトHP[独語サイト] ※注4:公共施設やビルなどの大型建造物や一般家庭を1つの発電ユニットととらえる。 再生可能エネルギー100%を目指すバーチャルパワープラント−RegModHarz同プロジェクトは、ドイツ中部ハルツ地方(行政単位は郡。人口約24万人、面積2,100km2)のダルデスハイムを中核とする農村部の、風力や太陽光発電を中心とした再生可能エネルギー利用が活発な地域で実施する。同地域は、風力発電ファーム(風力発電機約40基で最大発電量6MW)を有し、太陽光発電装置を備えた学校、事務所、一般家庭も多い。バイオガス発電装置、植物油を燃料とした地域コージェネレーションシステム(5MW)、電気自動車の充電ステーションもあり、再生可能エネルギーのモデル都市の様相を呈する。また、近隣にある揚水発電所(40MWタービン2基)は、余剰電力を使って貯水地に水を汲み上げて稼働し、巨大なエネルギー貯蔵庫の役割を担う。ダルデスハイムの電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合は既に3分の2で、将来的には100%を目指している。 同プロジェクトで取り組む課題は、天候の影響で発電量が不安定な再生可能エネルギーをどのようにして電力の安定供給に貢献させるかである。再生可能エネルギーを統合したバーチャルパワープラント(VPP)の構築と、その電力販売システムの確立という2本立てで課題に取り組む。個人顧客向けの電力需給バランスに応じた時間帯タリフや、VPPの電力販売のためのコーディネーターシステムのほか、家電製品の省エネを図るための双方向エネルギーマネジメント・インターフェイス(Bidirectional Energy Managemnet Interface=BIMI)の開発も取り組む予定である。本格的な実証テストは2011年に着手する計画である。ドイツ電力大手イーオン傘下の地方電力大手E.on Avaconとスウェーデン国営電力バッテンフォールのドイツ子会社Vattenfall Europe Transmissionが送配電網で協力し、地方公益サービス大手EnviaM、シーメンス、in.Power(ビジネスモデルの開発)、Krebs & Aulich(駆動システム)、市営公益サービス4社、フラウンホーファー研究所IWES(風力発電)、カッセル大学、マグデブルク大学等がプロジェクトを推進する。 RegModHarzが他のモデル地域と大きく異なるのは、電気自動車の蓄電装置としての可能性に取り組んでいる点で、これは『Harz.EE-mobility』というプロジェクトとして環境省から別枠の助成金を受けている。テスト車両に双方向インターフェイスを搭載して負荷マネジメントシステムを検証するとともに、電力系統に組み込むことを通して生まれるビジネスモデルも考案する。シーメンスと英ボーダフォンがICT技術、中小企業のKrebs &Aulichが駆動システム開発で協力する。 参考サイト:プロジェクトHP[独語サイト] 余剰電力を販売できるデジタル市場の構築−E-DeMaドイツ北東部の重工業地帯ライン・ルール地方が推進するプロジェクトは、「未来のE-Energy取引市場に向けた分散型エネルギーシステムネットワークの開発と実証」という目標を省略してE-DeMaと名付けられた。プロジェクトの柱は、電力消費者がプロシューマ(Prosumer=Producer + Consumer)として自家発電の余剰電力を販売できるようなデジタル市場の構築である。独電力最大手RWEの子会社RWE Rheinland Westfalenとクレフェルト市公益事業会社をつなぐ配電ネットワークに、ICTゲートウェイ(負荷マネジメント、家電制御、スマートメータリング、分散電源制御の基盤となるシステム)を中継してプロシューマを取り込もうという構想である。シーメンス(ICTソリューション)、ミーレ(家電メーカー)、ProSyst(ソフト開発)、ボーフム大学、デュイスブルク=エッセン大学、ドルトムント大学、ドルトムント工科大学が参加し、ICTゲートウェイや情報ネットワークのモデル化・最適化など技術開発に注力する8つの作業グループと、広報等の事務管理グループに分かれてプロジェクトを推進している。 実証テストは、人口密度が高く、あらゆる年齢層・社会層が混在するドイツの典型的な中小都市のミュールハイムで行われる。どんな家庭にも適用できる標準ソリューションの開発を目的とし、RWEが2011年末までに、同市の約11万所帯全てにスマートメーターを無料設置する。当面、顧客が受けるサービスは1カ月単位で計測した消費量がインターネットで確認できる程度にとどまるが、将来は、リアルタイム計測や時間帯タリフを提供していく予定である。RWEはこのプロジェクトに37億2千万円を投資する。高級家電のミーレは洗濯機にパワーマネジメント装置を搭載して稼働制御の実験を行っている。 参考サイト:プロジェクトHP[英語サイト] その他のプロジェクト上記のプロジェクトに加え、漁港を擁し北海に面したクックスハーフェンで行われるeTelligence(プロジェクトHP)[独語サイト]では、特に風力発電と冷熱エネルギーの電力システムへの統合、地域外への余剰電力輸出を視野に入れたデジタル電力市場のフレームワーク構築に力を入れる。現在、地元電力EWEが風力発電所(発電能力5MWのオフショア発電所)と魚類冷凍倉庫を連係し、風力の余剰電力の利用実験を行っている。冷凍倉庫のコンプレッサは風力の余剰電力を利用して作動し、風力発電の低稼働時には停止する。食品管理上の問題が発生しないように状況に応じて系統電力を取り込む仕組みになっている。一般家庭を巻き込んだ実地テストは今年夏にスタートする計画で、現在約2,000の参加家庭を募集している。 ドイツ南部のバーデン・ヴュルテンベルク州で行われているMEREGIO(プロジェクトHP)[英語サイト]は分散電源のネットワーク化とクリーンエネルギーの取引市場の構築を通して、排出量低減に貢献するエネルギー自産自消のコミュニティ作りを目指す。テストが行われるシュトゥットガルト近郊のゲッピンゲンでは、地方電力大手EnBWが第1段階として、顧客約2,000所帯にシーメンス(Siemens Energy)のAMIS (Automated Metering and Information System)(※注5)を設置している。今年春には第2段階として家電の電力制御を中心とした家庭内エネルギーマネジメントシステムのテストに取り掛かる予定である。 ※注5:電力消費量を計測するだけでなく、電力会社から消費者に至る電力サプライチェーン全体の情報管理を可能にする自動計測情報システム。 スマートグリッドへの期待このような地域レベルでの取り組みと並行して、潜在的市場規模が数兆円と言われる新市場での商機を狙った産業界の動きも顕著になってきた。電力業界ではスマートグリッドへの第一歩としてスマートメーターの導入を急いでいる。2008年にバッテンフォールの独子会社がベルリンとハンブルクの顧客1,000所帯への試験的設置を行い、イーオンはバイエルン州で1万台以上を設置した他、前述のようにRWEとEnBWといった電力会社もモデル地域での設置を進めている。電力会社がスマートメーター事業を子会社化する傾向も見られる。スマートメーター技術を提供するシーメンスは国内プロジェクトなどを通して拡販に取り組むだけでなく、国外での売り込みにも積極的で、オーストリア地方電力Energie AGから2014年までにAMIS40万台の受注契約を取り付けている。一方、他業種からの市場参入も始まっている。ドイツテレコムの通信システム子会社T-Systemsは2009年、地域公益サービスのTWF(Technische Werke Friedrichshafen)、スイスの重電・エンジニアリング大手ABBと提携し、ボーデン湖畔のフリードリヒスハーフェンでスマートグリッドのモデルプロジェクト『T-City』を立ち上げた。ガス・電力スマートメーターの検証テストと並行して、ABBとスマートグリッド・コンセプトの共同開発に着手する。自動車のフォルクスワーゲン(VW)はクリーンエネルギー小売りのLichtBlickと提携し、エコ発電事業に参入する。LichtblickはVWが製造する家庭用小型コージェネレーション装置EcoBlue(※注6)を今年春から販売開始し、10万台をネットワークするバーチャルパワープラント構想を描いている。 スマートメーターの導入でスウェーデンやイタリアに出遅れたドイツだが、エネルギー経済法の改正(※注7)で追い風が吹いている。新規定により2010年から新築住宅及び改築住宅にスマートメーターの設置義務が課され、2011年から電力小売業者は時間帯別料金を提供しなければならない。また、現在使用されているアナログメーターは2016年末までに廃止するよう指導している。電力大手イーオンの試算によると、電気メーター4,200万台、ガスメーター2,200万台の取り換え需要がある。スマートメーターへの取り替えをスムーズに行うためには、設置コストに見合う利点があることを顧客に納得させる必要がある。EnBWの子会社Yello Stromは配電会社に関係なく利用できるスマートメーターを提供し、設置コストは9800円で、毎月の基本料金に約400〜1100円(地域により異なる)の使用料が加算される(※注8)。同社は夜間の料金を3セント/kwh引き下げるなどの時間帯料金をすでに提供している。「顧客が(低料金の時間帯を選んで)賢く電気を使えば、電気代を年間で5〜10%節約できる」と、同社のフェスパー社長はスマートメーターの魅力を訴える(金融・サービステスト誌『Finanztest』2009年10月号掲載記事)[独語サイト]。ドイツでは消費者のスマートメーターへの関心はまだ低いが、今後普及が加速するにつれ、個人情報保護についての議論が高まることが予想される。 新市場への投資リスクを取り除くための規格作りもスタートしている。DKE(ドイツ電気・電子・情報技術委員会)(※注9)は、2010年2月、スマートグリッドにかかわる技術の標準化と国内規格制定ためのロードマップ草案を政府に提出した。草案には情報の安定性、データ保護、インターフェイス共通化、さらには分散電源・再生可能エネルギーのフィードインに必要な電力・負荷制御といった事項が盛り込まれている。公開意見聴取に基づいた最終案は、4月にハノーヴァーの見本市(※注10)で発表される予定である。このようにドイツがスマートグリッド構築に向けて多角的に取り組むのは、技術で世界の主導的な役割を担う自負と、新市場にいち早く参入しようという意欲が推進力となっていることは間違いない。 ※注6:VWのガス内燃技術とLichtBlickの制御装置を搭載。通常の電力・暖房別消費に比べ、エネルギー効率を最大40%、CO2排出量を最大60%低減。将来的に燃料を天然ガスからバイオガスに切り替える。 ※注7:エネルギー効率化に関わるEU指令2006/32/ECを順守して2008年9月に改正された。スマートメーターの機能を規定しているほか、2022年までにEU域内の全所帯への設置を指導している。 ※注8:現時点での一般的な設置コストは、9800〜12400円。機器は電力会社のもので、管理コストとして基本料金への上乗の有無は電力会社により異なる。 ※注9:ドイツ電子・電気・情報技術連盟(VDE)とドイツ規格研究所(DIN)が運営する電子・電気・情報技術分野の規格と安全性に取り組む組織。 ※注10:技術刷新、新テクノロジー、新開発をテーマにした見本市で、 2010年4月19〜23日に開催。 |