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概要  
近年登場してきた様々な電子マネーは、現在我々の生活に深く根付き始めている。その中でも、地域との連携の中で「地域通貨」を標榜し、その発行枚数を伸ばし続けているのがイオンの電子マネー「WAON」である。今回は、「WAON」による地域連携の狙いや、今後の展望について、イオンリテール株式会社 WAON電子マネープロジェクト プロジェクトリーダーの前川渉氏にお話を伺った。   
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国内有識者インタビュー 2010年2月号

生活者の電子マネー「WAON」を通じた地域貢献
−お客さま視点のインフラ構築を目指して−


−前川 渉 イオンリテール株式会社 WAON電子マネープロジェクト プロジェクトリーダー−

前川氏

1.普及が進むイオン電子マネー「WAON」

現在日本で発行されている主要な電子マネーの中でも、最も後発な形で2007年4月にサービスを開始したWAONは、2009年12月末時点で総発行枚数が1250万枚に上っており、月間で約40〜50万枚程度のペースで増え続けています。月間の決済件数も3370万件に達し、多くのお客さまにご利用いただけるようになってきました。

もともとイオンのお客さまの決済は、現金決済がメインで、その内訳を見ると約70%が現金決済、約30%がクレジットカードやギフト券などによる現金以外の決済となっていました。現在ではWAONでの決済が全体の約15%を占めるまでになっていますが、クレジットカードやギフト券による決済の割合に大きな変化はありません。つまり、新たにWAONにシフトしてきたお客様は、クレジットカード等を利用していたお客さまではなく、主に現金による決済を行っていたお客さまであるということが分かります。これは、現金を使用して買い物をして頂いていたお客さまがWAONを現金より便利、もしくはポイントなどによって現金よりお得であると感じていただけている事を意味していると認識しています。

当初はなかなか思うように普及が進まず、苦労も多かったWAONですが、現在ここまで利用や普及が進んだのは、当初より顧客視点で考えた点であり、WAONのユーザーフレンドリーな利便性と、地域や他社との連携に要因があると考えています。

分かりやすいポイント制度と手軽なカード発行

WAONの特徴は、その明快なベネフィットの仕組みにあります。例えばWAONでは、どのカードでもお買物200円(税込)ごとに1WAONポイントまたはJMBマイル(1円相当)が自動的に加算されます。これは、イオン以外で買い物をする場合も含め、どの店舗でWAONを利用しても同じ制度となっており、お客さまは同じメリットを受けられます。店ごとに貰えるポイントが違うといったとこがないため、お客さまの混乱を招く恐れがありません。これは、他のプリペイド型電子マネーにおいて、現時点では実現していない点であり、WAON独自の強みであると言えます。

また、WAONの利用にあたってはお客さまに必ずしも個人情報を入力していただく必要がないことから、初回利用の際に感じるお客さまの抵抗感も少ないといえるのではないでしょうか。カード自体も1枚300円でイオン各店の「レジ」や「サービスカウンター」で手軽に購入でき、その場で現金をチャージすればすぐに利用が可能になります。

このように、お客さまがWAONを利用する際のハードルを下げる細かな工夫を積み重ねた取り組みが、利用者拡大の一つの要因となっているかもしれません。他社に比べ最も後発でスタートした弊社だからこそ、先ほどから申し上げている顧客視点での工夫を考えた上で、わかり易い仕組みを強みとして活かしているわけです。

現在イオンにてWAONをご利用いただいているお客さまのほとんどは、元々現金による決済を行っていたお客さまであったという事実からも、こういった共通のポイント制度の明快さや、カード発行の手軽さにより、ポイントを貯めたいとは思いながらも、加盟店ごとに発行されるカードなど、今までその煩雑さから足踏みしてきたお客さまの潜在的なニーズをWAONがうまく満たせているのではないかと考えています。

地域や他社との連携で利用機会を拡大

また、WAONはイオングループ内だけで使える電子マネーではありません。各地域の商店街の皆様方とも連携し、地域全体でWAONが利用できるといったケースも増えてきています。例えば、長野県の「nagat WAON」、四国の「めぐりんWAON」、島根県の「石見銀山WAON」[PDFファイル]など、地域に根付いたWAONが存在します。

また、最近では都市部に進出している他社との連携も進めています。例えば、ファミリーマートさんやグループのミニストップといったコンビニ業界を始め、吉野家[PDFファイル]さんなどの飲食店、また、直近ではマクドナルド[PDFファイル]さんでもWAONが使えるようになりました。また、大都市のSCで、お台場にあるヴィーナスフォートさんや大阪のなんばウォークさんのように、現在では、全国各地でWAONの利用可能な店舗が着実に増えてきているのです。

2.地域通貨としての「WAON」をキーにしてWin―Winな関係を築く

現在イオンでは、WAONを全国各地で地域通貨として使っていただくことを目指しています。これは、その地域のあらゆる生活場面における決済手段として、地域通貨としてWAONを認識していただき、生活をしていく上でのインフラとしての役割をWAONが担えるようにしていこうということです。このことは、地域とイオンがWin―Winな関係を築くためにも非常に重要な目標です。実際、現在では様々な地域でWAONを導入いただき、WAONをキーにして共同のプロモーションを企画するなどの関係を築けるようになって来ましたが、ここまで多くの地域にて導入していただくまでには、様々な苦労がありました。

全てはお客さまのために。地域生活 の利便性を向上させるインフラとしての考え方

そもそも、WAONを企画するにあたっては、WAONをイオングループ内に閉じた通貨として位置付けるのか、それともグループ外も含めたお客さまの生活のインフラとして位置付けるのかといった議論がありました。確かに、WAONをグループ内の通貨として位置付けたほうが、単純に見ればイオン各店でお買い物いただくためのインセンティブになり、よりイオンの利益に貢献すると考えることもできます。しかし、イオンの基本理念は、「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」という、「お客さま第一」主義にあります。こういった理念のもと、WAONをお客さまの利便性を高め、地域社会に貢献するインフラとして位置付けるという選択に至ったのです。この選択が、結果的には現在のWAONの普及に大きく寄与したのだと考えています。

地域との関係の構築方法とは?

現在各地域で導入していただいているWAONではありますが、実は、各地域の皆様とのよりよい関係の構築はまさに始まったばかりであり、さらに良い関係を築いていくために、まだまだ手探りで模索をしていかなければならないと感じています。そもそも、イオンが出店する郊外周辺の商店街の皆様にとってみれば、いきなり現れるイオンの店舗は完全なライバル店だとみなされる方が多いと思います。そのライバル店であるという認識の中でWAONの提携話を持ちかけられたところで、商店街の皆様が素直に「はい」と言ってくれるわけはありません。そのため、WAONの発行当初は、こちらからの自主的な働きかけに対しての拒絶反応も強く、地域との連携を謳いながらも、なかなか思うような連携を進められずにいました。

しかし、WAONの位置付けは、お客様の利便性を高め、地域社会に貢献するインフラとして機能することです。そのためには、あくまでWAONを利用する側が、自由な発想でWAONを利用していただかなければ意味がなく、そのためにはこちらから導入を強要しても思うような効果は上がらないのではと考えたのです。

こういった発想のもと、イオンから加盟店を単に増やすためのアプローチをすることは止めて、WAONの導入・利用や、カードの発行・活用も全て含めて自由に検討いただけるよう、その選択を全てその地域の方々にお任せすることにしました。あくまで地域の方々からご提案やお話を頂いてから、どうしたら全体として上手くWAONを活用できるのかを一体となって考えさせて頂くようにしていったのです。その結果、各地域の中で、このWAONという仕組みをインフラとして活用する事でどのようなメリットがあるのかを冷静に検討して頂ける方々が出てきたのです。そういう状況が生まれてから、当初あった地域の方々からの強い拒絶反応が次第に変化していき、先入観なくWAONの導入・利用を推進いただける事が多くなりました。さらに、実際に導入され、メリットを実感した地域の方達から、地域同士のつながりとして他の地域の興味のある皆様へもその評判を伝えていただけるという口コミ効果が発生し、多くの地域からの問い合わせが来るようになっていきました。現在では、商店街だけでなく、石見銀山のような観光スポットでもWAONを導入していただけるようになってきています。

地域で愛される「WAON」になるために

現在までのWAONの導入状況を見てみると、WAONが導入された後、その地域にWAONがしっかり根付くためには、その地域で利用されるカードと、そのカードが利用できる店舗の二つが両輪として機能しなくてはなりません。

利用されるカードについて言えば、その地域独自のカードを発行することが重要でしょう。例えば先ほどの、島根県の「石見銀山WAON」や、四国の「めぐりんWAON」の例で言えば、その地域の特色やコンセプトを反映した独自のカードを発行し、その地域の住民の方々に愛着を持ってもらえるように工夫されています。

図1:四国「めぐりんWAON」

四国「めぐりんWAON」


また、WAONが利用可能な店舗については、その店舗における独自の取り組みが非常に重要です。過去には、沖縄のある旅行代理店が、WAONを使って大々的なキャンペーンを行うなど、WAONを自社の販売戦略として活用したことにより、非常に多くの顧客を獲得したということがありました。実は、沖縄の人口が約140万人、世帯数が約50万世帯に対して、沖縄のWAONユーザーは約20万人もいらっしゃいます。この旅行代理店では、WAONを積極的に活用することで、自社のサービスをうまく差別化し、沖縄に存在する多くのWAONユーザーを取り込むことに成功したのです。このことは、WAONをインフラとして認識し、提携店が独自で企画したプロモーションが効果につながったことを強く象徴する出来事であったと考えています。

3.これからのWAONの展望とは

WAONの活用や地域との連携といった部分では、まだ現段階では我々も手探り状態です。しかし、WAONは様々なことを実現する可能性を持っている電子マネーです。地域通貨としての役割の他にも、今後多くの役割を担っていくことができるのではと考えています。

ネットの分野でのWAON活用の可能性

世間では、ネット上での決済がかなり一般的なものになっていますが、この分野でもWAONの活用が考えられます。現在のネット上での決済はクレジットカードが主流ですが、中にはクレジットカードの番号入力を面倒に感じる、または機微な情報を入力することに抵抗があるという方々も多数存在しているのではないでしょうか。ネット決済でWAONをどのように活用するのかの具体的な取り組みはまだまだこれからの議論ではありますが、WAONの場合、個人情報を登録せずとも利用できるという利点がありますから、この点をうまく活用することで、普段ネット上で買い物をすることに抵抗がある方にも安心して買い物を楽しめるような仕組みが作れればと考えています。イオンでは現在、ネットスーパーの分野にも力を入れています。WAONのネット決済における活用の前提として、こういったコンテンツ分野の充実が大前提とはなりますが、今後の取り組みとしてネット上でのWAON活用は必須のものになってくると認識しています。

レジでの待ち時間を大幅に短縮する

また、決済の際に直接人を介さないという意味では、WAONとセルフレジの親和性は非常に高いといえます。そもそもセルフレジの導入は、混雑時や従業員が少ない時間帯に稼働しているレジを増やすことでお客さまをレジでお待たせする時間を短縮することができるため、イオンにおいても随時導入を進めているものです。セルフレジでの精算の際にWAONを使用することは、精算時間の更なる短縮にも繋がり、お客さまの利便性向上に大きく寄与するものだと考えています。また、このことは、イオンにおけるオペレーションコストの削減にもつながるため、経営上大きなインパクトをもたらすものと考えています。

こういった考えのもと、将来はイオンにおけるWAONの決済比率を、現在の15%から30%まで引き上げ、現金以外の決済比率をクレジットカードやギフト券などの利用比率と合わせ全体の現金決済比率を半分以下にまで引き下げたいと考えています。

4.最後に

我々はあくまで、WAONをインフラ的な役割として位置付け、加盟店を増やしていくことでお客さまの利便性を高めて行きたいと考えています。そういった意味で言えば、現在競合する他社の電子マネーとも、ある程度共通化することが必要なのではと考えています。例えば、カードリーダにカードをかざして決済が正常に完了したときには、各社独自の音を鳴らすことで個性が演出できるようになっていますが、決済が正常に完了しなかったときの音まで各社別々になってしまうと、お客様が混乱してしまいかねません。競合し、差別化すべき部分は適切に差別化していく必要はありますが、あくまでお客さまの利便性を考慮したものでなくてはなりません。今後電子マネーにおける更なる市場拡大を目指すためには、各社が適切なライバル関係を保ちながらも、お客さま目線で共通化する部分は共通化し、全体としての利便性を高める方向に進んでいくべきだと考えています。

また、WAONの決済件数は現在月間約3370万件となっていますが、これを4000万件、5000万件と伸ばしていくためには、更なる付加価値を提供していかなければと考えています。このことに関して、我々はよく蝋燭の例え話をすることがあります。蝋燭のそもそもの役割は、火を灯して人間に明かりを提供することです。しかし、現代の蝋燭の中には、アロマキャンドルといった明かり以外の目的に利用されるものも出現しています。このことは、同じ種類の商品によって、全く別のニーズを満たすことができるという例を、非常に良く表しています。そして、我々は電子マネーについても全く同じことが言えるのではと考えているのです。今まで、電子マネーの役割は、純粋な利便性向上のツールから始まり、現在ではポイントカード的な役割が付加されてきています。

この段階から、更に何か1つでも2つでもプラスアルファの要素が出てくれば、今後WAONがもっと普及していくのではないかと考えているのです。

例えば、総務省のユビキタス特区事業の「環境家計簿えこ花」に参加して、WAONで買物した購買履歴が自動的に生成され購入商品を入力しなくてもパソコンや携帯電話で確認ができ、消費活動でのCO2使用の概算がわかり、できるだけCO2のかからない消費活動に役立てる取り組みをしています。このようにデジタルマネーだから実現できる価値をいかに作り出せるかが電子マネー普及のポイントとなります。

今後の地域生活のインフラとして電子マネー全体の発展を支えていくためにも、IT業界の方々には通常のWAON推進の為のシステム作りと共に、是非ともお客さまの利便性向上といった視点を軸として共通化ルールの策定や仕組み作りにも協力していって欲しいと願っています。


【2010年2月 執筆・編集:株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータ経営研究所】

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