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2008年から、米国発のクラウドコンピューティングの大波が世界中に広がり始めている。この大波に飲み込まれると、サーバ/ストレージ/サービスのアウトソーシング事業は米国企業に支配される恐れがある。我が国はこの新潮流に対抗する政策を取り始めているが、シンガポール政府は早くから米国企業と協働し、最先端の技術を取り込み、必要な人材の育成に着実に努めてきている。本稿では、グリッドコンピューティングに国家として早くから取り組み、そのノウハウをクラウドコンピューティングに展開して、国際社会で有利な地位を確立しようと試みているシンガポール政府の政策について紹介する。   
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アジアマンスリーニュース 2009年7月号

シンガポール政府のクラウドコンピューティング利用促進に係る取組み

1.米国発のクラウドコンピューティングの大波

1990年代の半ば、米国発の「インターネットの大波」が世界を席巻し、ソフトウェア・サービス等において米国が世界で圧倒的な地位を築いた。今、第2の大波として、「クラウドコンピューティングの大波」が世界を席巻し始めている。クラウドコンピューティングは、現在は米国IT企業大手によるサーバ/ストレージ/サービス(※注1)のアウトソーシング事業の攻勢と見ることもできる。この先には、サーバ/ストレージ/サービスを「ICT資源」としてアウトソーシングする事業者が世界中で多数生み出され、これらの事業者と利用者の間に国際的なマッチングサイトや仲介業者が介在して、「資源」の売買が行われる「ICT資源の国際市場(Infocomm Resource Marketplace)」が新たに生み出されるかも知れない。

※注1:安価なシステム開発環境を提供することもこの中に含まれており、実際に起業家等が利用している。

このような国際動向を受けて、我が国政府やデータ通信事業者においては、米国のデータセンターが世界中で優位な地位を確立することに危機感を募らせ始めており、我が国のデータセンターからデータが海外流出しない仕組みや、海外からデータが集まる仕組みを検討し始めたところである。また、我が国政府は、「霞ヶ関クラウド」「自治体クラウド」を整備する政策を打ち出し、官公庁が率先してクラウドコンピューティングを利用する体制を整えようとしている。

一方で、シンガポール政府は、早くから国家戦略として「ICT資源の国際市場形成の先導役」となるビジョンを打ち出してこれに取り組んできている。この長期ビジョンは現在の「クラウドコンピューティングの大波」のさらに先を見据えた戦略であり、先進的な取り組みとして興味深い。そこで本稿では、2003年以降におけるシンガポール政府のこの長期戦略に沿う現在までの政策の流れを、グリッドコンピューティング及びクラウドコンピューティングに係るものを中心に紐解くことにする。

2.シンガポール政府のグリッドコンピューティング及びクラウドコンピューティングに係る政策の流れ

2.1 シンガポールのICT政策を担う情報通信開発庁

シンガポール政府におけるICT政策は、主に情報通信芸術省(MICA:Ministry of Information, Communications and the Arts)が実施し、情報通信芸術省の管轄する法定機関のひとつとして1999年に発足(※注2)したシンガポール情報通信開発庁(IDA : Infocomm Development Authority、以後「IDA」という)が、政策立案や国家的ICT計画の策定等を行っている。IDAにはICTの「インフラ・サービス開発」を所掌する部署が設置されており、ここではブロードバンドネットワークの整備、次世代無線通信ネットワークの整備とともに、シンガポールを「ICT資源のアウトソーシング事業提供の世界的な拠点」にすることに取り組んできている。

※注2:NCB:The National Computer Board (1981年発足) と TAS :Telecommunication Authority of Singapore (1982年発足)とが合併してIDAとなった。

IDAにおいて、上記の取り組みのうち「ICT資源のアウトソーシング」に係る部分を所掌するのが「国家グリッド局(National Grid Office)」である。国家グリッド局は2003年に発足した。IDAにおける国家グリッド局の位置付けは図表1 (※注3)の通りである。

※注3:IDAホームページ[英語サイト]に基づき作成。

図表1:IDAの組織構成と国家グリッド局の位置付け

図表1:IDAの組織構成と国家グリッド局の位置付け

 

2.2 「知的国家2015」とICT資源の国際市場創出戦略

シンガポール政府は、1980年以降、数年毎に国家ICT計画を打ち出しており、2006年には第6次となる最新の情報通信マスタープラン「知的国家2015(iN2015:Intelligent Nation 2015)」(※注4)を公表した。「知的国家2015」は、2006年から2015年に向けた10ヵ年の国家的ICT戦略を打ち出したものであり、IDAが中心となって複数府省と協働して策定を行なった(シンガポール政府における情報セキュリティ政策(2007年2月号)を参照)。

※注4:情報通信マスタープラン「知的国家2015(iN2015:Intelligent Nation 2015)」[英語サイト]

「シンガポールをICT資源のアウトソーシング事業提供の世界的な拠点にする戦略」については、「知的国家2015」のマスタープランの中で提言が行なわれている。

「知的国家2015」においては、「ICT資源のアウトソーシングに係る長期戦略」の実現形態を、当初グリッドコンピューティングの推進として捉えてきた。グリッドコンピューティングとは、広域ネットワークを通じてCPUやストレージ等のコンピュータ資源を結集することにより仮想的な高性能コンピュータを形成し、これを利用者が共有して使う仕組みのことである。「知的国家2015」では、グリッドコンピューティングの未来を図表2のように予測している(※注5) 。

※注5:“Innovation. Integration. Internationalisation”[PDFファイル]

図表2: グリッドコンピューティングの未来
短期(1〜3年) 中期(3〜5年) 長期(5〜10年)
コンピューティング資源(サーバ/ストレージ資源)へのオンデマンドアクセスが増加 ソフトウェアサービスへのオンデマンドアクセス(ASP・SaaS型サービス)の浸透 活発なICTグリッド市場形成に向かう
グローバルグリッドやユーティリティITインフラ(国際的かつ本格的なオンデマンドアクセスインフラ)の登場

また、グリッドコンピューティングは以下の2点に大きく貢献するものと予見している。

  • ソフトウェア及びサービスの価格低下
  • 利用量に基づく課金制度を利用したビジネスモデルの普及

以上のように、グリッドコンピューティングの進歩は、ICT資源のアウトソーシング事業の高度化と本格的な普及に向けての成長エンジンとして捉えられてきた。さらに、「知的国家2015」では、グリッドコンピューティングの国際競争力を武器にして、シンガポールをICT資源のアウトソーシング事業の世界的拠点にまで高めようとしている。これが実現する2015年頃には、多数のアウトソーシング事業者と幅広い層の利用者との間に国際的なマッチングサイトや仲介業者が介在して「資源」の売買が行われる「ICT資源の国際市場」が新たに生み出されると予想しており、シンガポールがその主導権を取ろうというわけである。この戦略は、「インフラ整備・強化」「プロフェッショナル人材育成による競争力向上」「国際協力」の3本柱から構成されたバランスの取れたものになっている。

また、グリッドコンピューティング戦略と平行して、「次世代国家ブロードバンドネットワーク」(Next Gen NBN: Next Generation National Broadband Network)の構築ビジョンも打ち出しており、2015年までに1Gbpsを超える超高速ブロードバンドネットワークの完成を目指している。ネットワークインフラの整備が、グリッドコンピューティングの進展にも貢献するとして、相乗効果が期待されている。

2.3 グリッドコンピューティングからクラウドコンピューティングへの展開

2008年頃からクラウドコンピューティングが世界的に注目を集めるようになった。IDAはクラウドコンピューティングをグリッドコンピューティングの発展形として捉えているようである。このため、IDAは2009年より、現在までに培ってきたグリッドコンピューティングの技術、人材、ICT資源を活用して、クラウドコンピューティングを用いたサービス創出の支援に国家としていち早く取り組み始めている。

3.具体的政策

3.1 国家グリッドパイロットプラットフォームの整備 〜まずは研究機関の利用から〜

IDAは2003年から「国家グリッドパイロットプラットフォーム」(NGPP:National Grid Pilot Platform、以後「NGPP」という)(※注6) の整備を開始している(※注7)。NGPPは、グリッドコンピューティングの有効活用を、まず研究機関や政府機関から率先して進めようという試みであった。NGPPの整備に参加した機関は以下の通りである。

※注6:NGPP:National Grid Pilot Platform [英語サイト]
※注7:IDA[英語サイト]

  • シンガポール科学技術研究庁(The Agency for Science, Technology & Research:A*STAR)
  • 国防科学技術庁(Defence Science & Technology Agency)
  • 経済開発委員会(Economic Development Board)
  • IDA
  • シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)
  • ナンヤン技術大学(Nanyang Technological University:NTU)
  • シンガポールーマサチューセッツ工科大学連合(Singapore-MIT Alliance:SMA)

このうち、高等教育機関 (NUS、NTU、SMA)及び研究機関 (A*STARの参加機関)がコンピュータリソースを提供し、NGPPの構築を支援した。

また、民間ベンダーもNGPPの整備に深く関わっている。具体的には、IBM・Cisco・Starhub・SCS・Dell・HP・Sunといった企業が、寄付金やコンピュータ機器の貸出し、専門知識・技術・人材等のサービスを提供して、NGPP整備を支援した(※注8)。

※注8:GLIDBLOG[英語サイト]

このようにして立ち上げられたNGPPは以後順調に拡大を続けており、NGPPのプラットフォーム規模は2003年から2008年までに4倍に拡大し(250 CPUから1000 CPU)、発足当初R&D関連中心だったパイロットユーザも、他産業に広がってきている(※注9) 。

※注9:IDA[英語サイト]

3.2 国家グリッドインフラ整備・強化イニシアティブ(The National Grid Initiative)の推進と「Grid Market Hub」構想

(1) 国家グリッドインフラ整備・強化イニシアティブの推進

シンガポールをICT資源のアウトソーシング事業の世界的拠点とするため、「知的国家2015」が発表されて以降、シンガポール政府は国内を拠点としたグリッドサービスプロバイダ(ICT資源のアウトソーシング事業の提供者)の育成に取り組んできた。これが、「国家グリッドインフラ整備・強化イニシアティブ」である。この政策では、シンガポール政府が国内を拠点としたグリッドサービスプロバイダ(オンデマンドやPay-per-use(従量課金ベース)でのサービス提供者)を公募してその事業立ち上げを支援するとともに、事業開始後は約4割のICT資源をシンガポール政府・公的機関がアウトソーシングで利用して事業の育成を行っている。

(a) グリッドサービスプロバイダの公募

2008年6月、国内を拠点とした「国家グリッドインフラ」サービスの提供者として、IDAは3つのコンソーシアムと契約を行なった(※注10)(※注11) 。これらのコンソーシアムの概要を図表3に示す。「国家グリッドインフラ」サービスでは、低価格で「Compute-As-A-Service」「Storage-As-A-Service」「Software-As-A-Service (SaaS)」が提供される。

※注10:FACT SHEET National Grid[英語サイト・PDFファイル]
※注11:2007年11月、公募(CFC:Call-For-Collaboration)を開始。2008年2月、公募締め切り後、グリッドサービスプロバイダやソフトウェアベンダに対して提案要請。2008年6月17日契約締結。

図表3:「国家グリッドインフラ」サービスを提供するコンソーシアム
コンソーシアム名称 提供機能 メンバー企業
Alatum(※注12) ・ユーティリティコンピューティング
・プラットフォーム
・アプリケーション
Singapore Computer Systems, Ltd (※注13)
Microsoft
Hewlett-Packard
Oracle
Salesforce.com
NGRID(※注14) ・プラットフォーム
・アプリケーション
NewMedia Express
VMWare
Cpanel
Fujitsu Asia
1-Net Singapore
Microsoft Singapore
Advanced ERP
PTC SaaS (※注15)
(Storage As A Service)
・ストレージ PTC System (S) Pte Ltd

※注12:Alatum[英語サイト]
※注13:現在はSingapore Telecommunication, Ltdが買収、AlatumはSingTelの傘下に入った。
※注14:NGRID[英語サイト]
※注15:PTC SaaS[英語サイト]

(b) グリッドサービスプロバイダの事業展開

上述した3つの世界初の「国家グリッドサービスプロバイダ(National Grid Service Providers)」は、主として、金融サービスやデジタルメディア産業などを対象として、高度な計算機能の提供を開始した。2008年11月には、商用サービスの提供が始まっている。また、2011年までには、3,000にのぼる中小企業が、「国家グリッドインフラ」サービスの計算・ストレージ・ソフトウェア資源を、オンデマンドかつ従量課金ベースで活用すると見込んでいる。上記3つのコンソーシアムは、2009年上半期時点で順調にユーザ数を拡大している。

(2) 「Grid Market Hub」構想の展開

IDAは、ICT資源を提供する事業者と利用者の間で資源の利用をマッチングまたは仲介するICT資源の国際市場を、2013年を目途にシンガポールに創出することを構想した。これが、グリッドコンピューティング資源を世界的規模で活発に売買する「Grid Market Hub」構想である。

この「Grid Market Hub」は、「ICT資源を提供するアウトソーシング事業の中央市場」というビジネスモデルに基づくもので、ICT資源を提供するグリッドサービスプロバイダ(国家グリッドサービスプロバイダ等)が、仲介組織である「グリッドエクスチェンジ(Grid Exchange)」を通して、ユーザにアウトソーシングサービスをオンデマンドで提供するものである。Grid Market Hubの概念を図表4に示す。


図表4:Grid Market Hubの概念図(※注16)

図表4:Grid Market Hubの概念図

※注16:Grid Market Hubの概念図[英語サイト・PDFファイル]

「Grid Market Hub」において、商用利用に耐えうるサービスレベル(SLA)が達成されたサービスが売買され、ユーザとサービスプロバイダ数が一定数に達すれば、ユーザ数の連鎖的増大と市場の継続的拡大が期待される。この意味でシンガポールは、国家として「ユーティリティコンピューティング」(いつでも使える計算資源)の商業化を着実に実現しつつあるといえる。

3.3 オープンシーラスクラウドコンピューティングテストベッドへの国家としての参画

〜クラウドコンピューティングへの取り組みの開始〜

シンガポール政府は、2008年頃から、クラウドコンピューティングへのパラダイムシフトをうけて、同分野における国際競争力強化の取組みを活発化させている。「オープンシーラス(Open Cirrus[TM])クラウドコンピューティングテストベッド」への参画も、そのひとつである。

「オープンシーラス・クラウドコンピューティング・テストベッド」とは、オープンソースのシステム及びサービスの研究を目的に構築された、複数のデータセンターの集合体である。2008年7月に米国Hewlett-Packard、Intel、Yahoo! が設立、資金提供している。2009年6月時点で、計6カ国、9箇所の研究拠点(Center of Excellence)において、研究者やアプリケーション開発者を対象に、クラウドコンピューティングのテスト・開発環境を提供している。シンガポールにおけるテストベッドは、高等教育機関や研究機関、政府機関や民間企業(HP、Intel、Yahoo!、SingTel)のサーバ/ストレージ並びにデータセンター群から構成されている。

シンガポール政府がテストベッドに参画した最大の目的は、クラウド技術に精通した中核技術者数の拡大と、国内におけるクラウドコンピューティング分野の先進的技術開発や研究の推進である。基礎研究に携わる研究者、グリッドアプリケーション開発に取り組むサービスプロバイダ、クラウドサービスの利用者のすべてから技術や事業の革新を支える中核的人材を生み出そうとしている。また、2009年6月、IDAは、シンガポールCOE(Center of Excellence)の具体的な達成目標を、図表5のように提示している。

図表5:シンガポールCOEの具体的な達成目標
領域 達成目標
研究促進 45の研究プロジェクトを支援・促進
(うち15は国際協力プロジェクト)
開発 ソフトウェア・アプリケーション開発分野における14のインターネットスケールプロジェクトについて、クラウドサービスを提供
技術人材育成 シンガポール国内から毎年60人を対象にHadoop研修を実施

このうち、「オープンシーラス・クラウドコンピューティング・テストベッド」への参加の一環として2008年に開始されたHadoop研修コースは、シンガポールIDAとYahooが共同で開催するもので、2009年6月までに3回実施され、約150名の修了者を輩出している。Hadoopとは、Googleの大規模分散計算技術をオープンソース化したフレームワークであり、Hadoop研修は在シンガポール企業・組織からの参加者及び高等教育機関の学生希望者に無料で提供されている。この1〜2日間の研修の内容は、パラレル/分散プログラミング及びコンピューティングの基礎的な概念に関する講義(希望者のみ)と、Hadoop・MapReduce・Pig・ZooKeeper(分散処理を行うための各種環境)に関する講義、さらにこれらのプログラミング実習から構成されている。実習においては、受講生が各自持ち込んだラップトップを用い、国家グリッドサービスプロバイダのひとつであるAlatumが提供するインフラ上で演習を行っている。

3.4 クラウドイノベーションセンターによるプライベートクラウドの推進

IDAは、パブリッククラウドでの業務運営に懸念を抱く企業による利用促進を図るため、プライベートクラウドの開発を支援する施設「クラウドイノベーションセンター」(CIC:Cloud Innovation Center)を2009年4月に設立した(※注17) 。IDAはクラウドイノベーションセンターのクラウド資源の提供先として、Alatumコンソーシアムのメンバーでもあるプラットフォームコンピューティング社(※注18) を採択し、当該センターを同社のシンガポールにおける研究開発拠点内に整備した(※注19) 。

※注17:CIC:Cloud Innovation Center[英語サイト]
※注18:プラットフォームコンピューティング社[英語サイト]
※注19:プラットフォームコンピューティング社:ニュースリリース[英語サイト]

クラウドイノベーションセンターは、以下のリソースを国内の産官学に無償で提供している(※注20) 。

  • コンピューティングリソース及びクラウドソフトウェアの提供
    有望なベンチャー企業に対し、グリッド及びクラウドコンピューティング資源の提供を行なう

  • 技術的なコンサルティングによるクラウド技術の導入支援
    ソフトウェアベンダーやベンチャー企業を対象として、開発における概念実証を支援するとともに、パイロットプロジェクトの段階においてフルタイムのコンサルティングを行なう

  • 5日間のクラウドコンピューティングに関する研修プログラムを提供
    一般企業、政府組織、ソフトウェアベンダー、新規参入事業者等を対象として、5日間の技術研修プログラムを提供する。2011年までに600名以上のエンジニア及びIT管理職の研修を行なう計画である。

※注20:Clouds Moving into the Enterprise[英語サイト・PDFファイル]

4.クラウドコンピューティングの課題とは

(1) シンガポール政府に見る課題

2009年に入り、シンガポール政府は、今後の課題解消に向けた具体的な取組みを進めている。

2009年4月、シンガポール国内で開催されたクラウドコンピューティングのフォーラム「Open Standards Day 2009」における基調講演のなかで、IDAの副CEO、Khoong Hock Yun 氏は、クラウドコンピューティングの今後の課題として以下の3点を挙げている。

  • 相互運用性 (interoperability)と 標準化(standards)
  • セキュリティ(security)
  • 法整備 (regulations)

相互運用性の促進については、IDAは国際的な枠組みに積極的に参加している(例:クラウドコンピューティング相互運用性フォーラム(CCIF:The Cloud Computing Interoperability Forum(※注21) )、クラウドキャンプ(CloudCamp(※注22) )、オープングリッドフォーラム(Open Grid Forum (※注23))。相互運用性を確保するために、様々な作業部会で技術標準の策定が検討されているところである。

※注21:CCIF:The Cloud Computing Interoperability Forum[英語サイト]
※注22:CloudCamp[英語サイト]
※注23:Open Grid Forum[英語サイト]

また、法整備に関しては、クラウドサービスプロバイダーが適切な法律を遵守することが、企業におけるクラウド利用促進に繋がるとして、IDAは、法整備が必要な産業領域を特定している(例:金融、医療、高性能計算(HPC)、データ解析、モバイル環境)。これらの領域においては、IDAの支援のもと、まずフラッグシップとなる導入事例を構築する取組みが進められている。我が国においても、医療・金融等の分野において、クラウドコンピューティングの利用への抵抗感が強いようである。これは、法制度上の課題に加えて、我が国における個人情報の取扱いに対する慎重な世論を反映しているものと考えられる。法整備に加え、議論を尽くした結果を反映した指針等の必要性が指摘されるところである。

(2) 我が国の政策への示唆

シンガポール政府は、クラウドコンピューティングの先にある世界を見据え、ICT資源のアウトソーシング事業において世界の拠点の1つになろうという長期戦略を持っており、米国大手等と積極的なアライアンスを構築している。

データセンターのコストを決める電気料金、土地の地代、建設コスト、環境負荷要求等において、我が国は決して有利な条件にあると言えない。このような環境の中で、将来ICT資源の活発な国際間取引が行われる時代が来たときに、国際的にどのような地位を目指していくべきなのであろうか。また、そのためには国内企業のグローバル化や米国大手との連携はどのようにすべきであろうか。我が国においても、こういった事項に係る長期ビジョンを検討すべき時期に来ている。シンガポール政府の取り組みはこの検討に興味深い示唆を与えてくれるのではないだろうか。

【2009年7月 執筆・編集:株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータ経営研究所】

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