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17年もの長きに亘る景気拡大期が続いたオーストラリア経済であったが、世界的な景気後退の余波を受け、経済減速を余儀なくされている。オーストラリア政府はこうした状況を受け、2008年秋以降、次々と大型景気刺激策を打ち出してきた。本稿では、オーストラリアの昨今の経済状況を俯瞰し、目玉となる景気刺激策の最新状況を報告する。
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アジアマンスリーニュース 2009年6月号 オーストラリアの景気対策長期成長に陰りが見え始めたオーストラリア経済オーストラリアは、先進国の中でも、1992年以降17年間に亘り、長期的且つ安定的な成長を続けてきた国である。昨今の世界金融危機を背景に、米国をはじめ先進諸国が景気後退を余儀なくされているのに対し、つい最近まで、オーストラリアは世界の金融危機とは無縁との声が多く聞かれていた。しかしながら、現在ではそのような声は聞かれなくなっている。 オーストラリア財務相が2008年11月に発表した「2008-09年度中間経済・財政見通し(Mid-year Economic and Fiscal Outlook 2008-09, MYEFO [英語サイト])によると、GDPの成長率予測は2008年5月の予算策定時に比べ2%に下方修正され、同国の失業率も予算策定時の4.5%から5%になるものと修正されるなど、金融危機による世界経済減速の影響が色濃く反映された結果となった。 また、2009年1月発表のIMF「World Economic Outlook Update」では、オーストラリアのGDP実質成長率は、前期比マイナス0.2%とされた。2008年第4四半期のGDP成長率もマイナス0.5%を記録し、それまで堅調に成長を続けてきたオーストラリアのGDP成長率がマイナスとなったのは、一般消費税の導入直後に当たる2000年第4四半期以来のことである。特にサブプライムローン問題を背景とする2007年の米国の住宅バブル崩壊以降の減少が著しいことから、オーストラリア経済も、2007年後半から、これを契機とする世界金融危機の影響を少なからず受け始めていたことが窺える。 2009年3月31日、オーストラリアの中央銀行であるオーストラリア準備銀行 (The Reserve Bank of Australia, RBA) は、初めて公式に、オーストラリア経済が実質的に後退していると言及した。これまで比較的楽観的な見通しに立っていたオーストラリア政府も、この2008年第4四半期GDPが前期比マイナスに転じたことを受け、本格的に景気対策に取り組む姿勢を公に見せ始めたのである。 オーストラリア政府による大型景気刺激策上記に述べた通り、これまで堅調に発展してきたオーストラリア経済も、世界的な経済の減速の影響から逃れられない状況となったことを受け、豪政府は2008年秋より大型景気刺激策を相次いで発表している。以下に特に目玉となる政策を紹介する。 1.104億豪ドルの「経済安全保障戦略」オーストラリア政府は、2008年10月14日、総額104億豪ドル(約7,435億円 (※注1))に上る景気刺激策を発表した。同政策は、ケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相が、「2008-09年度の財政黒字220豪ドル (※注2) の約半分を活用し、断固とした予算措置を行う」とし、オーストラリア最大野党の自由党党首マルコム・ターンブル(Malcolm Turnbull)氏も支持の意向を示したものである。 ※注1:2008年10月14日当時のレート:1豪ドル=71.5円換算。 ※注2:2008年5月の予算策定時の予測値。 本政策は、年金生活者や低中間所得者層、住宅の新規購入者向けの対策を柱として、その予算の内訳は、年金支給に48億豪ドル、子供を持つ低中間所得世帯向け給付金支給に39億豪ドル、初回の住宅購入者支援に15億豪ドル、職業訓練支援に1億8,700万豪ドルであった。政府はこの景気刺激策により個人消費を刺激することを期待し、これらの支給をクリスマス前の12月8日から開始した。 2.47億豪ドルの「国家建設パッケージ」その後2008年12月12日、上記104億豪ドルの景気刺激策に続く追加的な措置として、47億豪ドル(約2,832億円(※注3) )の「国家建設パッケージ」が打ち出された。 ※注3:2008年12月12日当時のレート:1豪ドル=60.3円換算。 これはオーストラリア経済の更なる強化と雇用創出を目指し、道路、鉄道、教育関連等のインフラ整備事業を実施するもので、政府は本政策が3万2千人の雇用創出にも繋がると発表した。 具体的には、次の3つの重要なインフラ整備事業のための予算が組まれている:
※注4:Technical and Further Educationの略称で、政府が運営する州立高等専門教育機関。各州政府により運営されており、オーストラリア全土で200校以上設立されている。 以上のほか、同パッケージには、オーストラリア企業に対する設備投資奨励を目的として、一時的な投資控除等支援のための16億豪ドルも確保されている。 3.420億豪ドルの「国家建設−経済刺激計画」続いて2009年2月3日、豪政府は総額420億豪ドル(約2兆4,455億円(※注5) )に及ぶ国家建設・雇用計画を発表した。これはオーストラリアにおける将来の長期的な経済成長と雇用促進を目的としたもので、豪財務省は、2008-09年度及び2009-10年度において、9万人の雇用創出に繋がると予測した。 ※注5:2009年2月3日当時のレート:1豪ドル=58.2円換算。 この大規模景気刺激策の主な内訳は次の通りである。
以上のように、同計画はオーストラリアの中長期的な成長を睨んだ予算配分となっている。 4.430億豪ドルの「新・超高速国家ブロードバンドネットワーク整備計画」更に2009年4月7日、オーストラリア政府は、向こう8年間で約430億豪ドル(約3兆660億円(※注6) )を投じ、全豪に光ファイバーによる超高速ブロードバンドネットワークを整備すると発表した。本プロジェクトはオーストラリア史上最大のインフラ構築プロジェクトになるとされており、年間2万5千人(ピーク時には3万7千人)の雇用創出効果も見込まれている。 ※注6:2009年4月7日当時のレート:1豪ドル=71.3円換算。 ラッド首相は、同プロジェクトを「オーストラリアの長期的な国益に焦点を当てた歴史的な国造りへの投資だ」と語り、世界的な金融危機の広がりに伴い、18年ぶりに後退局面に入った豪経済を下支えする大型景気刺激策としても、大きな期待がかかっている。 新たなブロードバンドネットワーク構築は、官民協同により行われることとなっており、オーストラリア政府が過半数を出資し、ネットワークを構築・運営する新会社を設立する。その当初の資金としては、政府が47億豪ドル(約3,350億円(※注7) )の初期投資を行い、その後、オーストラリア建設基金(Building Australia Fund)と、AIBs債券(Aussie Infrastructure Bonds)の発行を通じ資金が拠出される予定である。 ※注7:2009年4月7日当時のレート:1豪ドル=71.3円換算。 OECDの統計によると、現在、オーストラリアのブロードバンド化率は世界第16位である(※注8) 。そして、その接続は1メガビットに満たないDSLとケーブルによるものが大半であり、光ファイバーによる高速ブロードバンドの整備という点では世界に立ち遅れている。今回発表された新ブロードバンドネットワークは、光ファイバーにより、オーストラリアの家庭、学校、職場の90 %を、従来よりも100倍高速となる毎秒100メガビットで接続するものである。またその他の1割については、次世代ワイヤレス及び衛星技術の利用により毎秒12メガビットの接続速度が実現することとなる。 政府は2010年初めには、実際のサービス運営方法、詳細なネットワーク設計、民間セクターの投資を奨励する方法等の研究を開始し、また地域企業に対して入札参加の機会を提供する方法も検討する。なお、新ネットワークサービス開始から5年以内に、政府は持ち株を売却し完全民営化する予定としている。 以上の通り、2008年秋以降のオーストラリア政府の景気刺激策のための財政出動は、1,00億豪ドル以上に上っている。
出典:オーストラリア政府景気刺激策サイト(Australian Government’s Nation Building - Economic Stimulus Plan) [英語サイト] 景気刺激策の進捗をオンラインで紹介2009年3月20日、オーストラリア政府の景気刺激策に関する情報及びその進捗状況に関するアップデートを、国民がいつでもオンラインで入手できるワンストップポータルサイトが立ち上がった。 同サイトでは、現在オーストラリアで施行されている景気刺激策の概要や、最新の進捗状況等の情報がカテゴリー別に提供されているほか、サイトへのオンライン登録により、ユーザは豪財務省からの定期的な経済状況のアップデートや、景気刺激策の最新状況に関する情報をメールで受け取ることができる。 図2:オーストラリア政府景気刺激策に関するワンストップポータルサイト
出典:Australian Government’s Nation Building - Economic Stimulus Plan [英語サイト] 上記サイトで提供される景気刺激策の情報は、「教育/地域インフラ/道路・線路/住居関連/断熱/ソーラー」等の分野別カテゴリーと、「『あなた/あなたの家族/あなたの家/あなたの地域/あなたのビジネス』のための情報」という恩恵を受ける主体者別のカテゴリーの二側面から整理されており、ユーザが探したい情報に容易に到達できるような工夫が成されている。 現在、本サイトは随時メニューやデザインが更新され発展途中であるが、先述の景気対策関連予算を活用して、自分の住む町でどのようなプロジェクトが実施されているのかを検索できるサービスも提供されているなど、国民の税金が何にどのように使われているかを積極的に開示する仕組みを整備しつつある。 図3:所在地ごとにどのようなプロジェクトが実施されているかを検索するサービス
出典:Australian Government’s Nation Building - Economic Stimulus Plan [英語サイト] 今後に向けて2008年10月に発表された104億豪ドルの景気刺激策は、給付金の支給がクリスマスシーズン直前に実施されたことから、12月の一時的な個人消費増加には繋がったものの、その効果は一時的なものに留まり、既に2009年1月には消費が落ち込み、個人消費の増加は補助金政策無しには厳しい状況にある。このことから、2008年秋以降に次々と打ち出されたオーストラリア政府の景気刺激策に対しては、近視眼的な対策であるとの懸念の声もある。しかしながら、オーストラリアでは米国と異なり、雇用の減少に歯止めの兆しが見えてきた。2009年1月の雇用統計では、失業率は上昇したものの、雇用者数は前月比1,200人の増加に転じている。また、2009年7月からの新年度予算では、景気刺激策第三弾として更なる政策が打ち出される計画もある。したがって、全ての景気刺激策の効果が評価できるまでには、今しばらくの時間を要するだろう。 また、2009年2月に発表された420億豪ドルの景気刺激策では、その予算の大半がインフラ整備事業に充てられ、更に4月に景気刺激策の一つとして発表された430億豪ドルの新しい超高速ブロードバンドネットワーク整備事業は、「オーストラリアの長期的な国益に焦点を当てた歴史的な国造りへの投資である(ラッド首相)」とされているように、同国はこれらの政策を、一時的な個人消費増加策や雇用創出策としてではなく、オーストラリアの将来の生産性の増加と国際競争力を支えるために、長期的な視点に立って打ち出していることがわかる。 そして、オーストラリア政府はこれらの中長期的なビジョンと景気刺激策に関する最新情報を、ワンストップポータルサイト「Australian Government’s Nation Building - Economic Stimulus Plan [英語サイト]」にて常に国民に開示しており、税金の使い道に関する国民の納得を得るために、最大限の協力要請を行おうとする政府の姿勢も窺える。 日本では、定額給付金の支給が先頃開始されたが、その直後の内閣支持率が低下するなど、国民の納得感や支持が不十分なまま景気対策が一人歩きしている感が否めない。 今後日本も景気対策を行うことを余儀なくされる経済状況が続くが、長期的な視点に立ち、国民への情報開示・協力要請を惜しまず、自国の発展に繋がる政策を打ち出すオーストラリアの事例に学ぶべき点は多い。
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