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概要  
全国有数のIT先進都市である沖縄県浦添市は、地域住民の視点に立った行政サービスの向上のためITを積極的に利活用している。今回は、同市の情報政策を担当してきた上原氏と上間氏に、行政サービス向上とITの関係やシステムの共同運用に向けた自治体連携のあり方等幅広いお話を伺った。   
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国内有識者インタビュー(地域サービス特別号5) 2009年4月号

ITが架け橋となった自治体連携、住民参画
−浦添市の挑戦−


−上原 豊彦  浦添市市民部市民課課長(前 浦添市企画部情報政策課課長)−
−上間 泰治  同 企画部情報政策課課長−

上原氏、上間氏
上原氏(左)、上間氏(右)

1.住民との対話、住民参画の重視

浦添市について

浦添は沖縄が琉球王国だった時代、3地域に分かれていた内の一つの拠点であると共に、首里城に琉球王朝が移る以前には、浦添市内に王朝があったことでも知られる歴史と伝統のある市です。かつては浦添に浦襲という漢字が用いられたこともあり、浦を襲うことから「うらそえ」とにごらず読みます。

現在の市の特徴ですが、産業構成はほとんどが第三次産業です。人口は約11万人で住民の平均年齢は35歳と非常に若く、また、那覇のベッドタウンでもあるため浦添市内で生まれ育った人口の比率は高くありません。こうした地域の特色から、住民による浦添市や地域との結びつきが希薄であるという意識が指摘されています。

一方、浦添市は全国でも有数のIT先進都市です。背景としては、現在の市長が平成13年に着任後IT導入に積極的に取り組み、市内のネットワークの整備を行ったこともあり、ADSL、CATVインターネット及びFTTH(光ファイバー)と多様なブロードバンドサービスが提供されています。市民のインターネットへの加入率も高く、ITの活用度は高いといえるでしょう。

行政サービス向上とIT

地方自治体に現在求められている役割が何かということを追及するのは、地方自治サービスを提供する際の原点でもありますが、我々は行政サービスの向上に尽きると認識しています。そこで、行政サービスの質を向上させるための前提条件は何かを考えてみると、住民との対話、住民による地方自治への参画に行き着くのではないでしょうか。

私達の所属する情報政策課においても、こうした観点に立った上で業務を進めています。すなわち、我々の役割は、地域の住民や企業の方にITを活用してもらうことによって、行政情報の共有を実現したり、現在の行政に足りないところや今後の期待に関する意見を収集するといった点にあります。今後も、役所内の住民サービスを担う部門との調整、連携を図りつつ、政策決定の過程から情報を提供することで、住民との距離を近づけていきます。

韓国が進める住民参画をベンチマークに

こうした、市内の住民や企業による行政への参加や情報共有の促進の先進事例という点で、韓国ソウルの江南(カンナム)区をベンチマークしています。江南区では、区政を行う際に電子メールで区民にアンケートをとることになっていて、賛成の割合が全体の8割ないと予算がつかないという仕組みになっています。

住民が声を出せばそれが行政に直接反映されるこのような仕組みは、非常にすばらしいものと認識しており、声を出しても反応がないからということであきらめがちな日本の行政とは非常に対照的といえるでしょう。

2.総合行政システムを通じて学んだこと

業務改善によるコスト削減

浦添市では、行政サービスの更なる向上に向け、新たな総合行政システムの導入にとりかかり、この3月に無事サービスを開始させることができました。新システムで実現しようとしたのは、電算経費にかかるコスト削減と地元のベンダの育成です。

まず、業務改善とコスト削減についてです。従来は、パッケージを導入してカスタマイズをかけていましたが、今回はゼロから構築したのが特色で、現行の業務を前提とするのでなく、業務自体の改善、手順見直しが骨格でした。今までは、既存システムが業務改善の阻害要因となっていましたが、改めて業務分析を行うことによって、改善すべきとされた業務は見直しを行った上でそれからシステム化するという手順をとりました。

これにより、今後業務改善が発生した際も、今回のノウハウを生かし従来よりも簡単に対応することができるようになります。また、保守運用コストが8割で新規開発が2割だった従来のコスト構造を、データベース、OS、ネットワーク等の共通基盤化やシンクライアントによって、逆転させるべく取り組んでいるところです。

地元ベンダ育成

もう一つの柱である地元ベンダ育成ですが、今回のシステムでは第三者のベンダに対しても、ドキュメント及びプログラムソースといったシステムの中身をオープンにすることとしました。こうすることで、開発を担当していない地元ベンダでも、システムの保守や改修を行う際に仕様を見ることができるため、メンテナンスの実施が容易となります。

内部業務から外部向けサービスへ

現時点では、総合行政システムが対象としているのは市役所内部の業務です。ただし、福祉については次年度(2009年度)の構築を予定しています。これについては、現在の取り組みの柱である、統合データベース化、Web化によって、今後住民や企業に対してサービス提供を行う際に、より簡単に実現することができるようになるでしょう。

また、浦添市に限らず、外部の自治体に対して今回の取り組み基盤をオープンにすることで広域化行政の第一歩を目指そうというのも計画のひとつです。少し大げさかもしれませんが、従来は国に一つ一つお伺いを立てていた地方行政が、こうした仕組みを生かすことで地域主導による行政を目指すことにも繋がるものではないでしょうか。やはり今後、地域が元気になることが必要です。

調達時の工夫点

公募の方法そのものは通常のルールに沿ったものでしたが、今回の調達には前例がありませんでした。まず、仕様書冒頭の公募の概要で「共同で開発するパートナーを募集するものであり、基幹システムの開発を委託するものではない」とし、市は開発にかかる業務ノウハウの提供等を行うのみとしました。応募する側から見れば、どの程度の費用がかかるか分からず、本件によるビジネスについては独自に考えなければならなかったことから、大変だったでしょう。

また、公募する際に仕様書の中で提示されたのは、技術面では言語やプロトコル等最小限のルールのみを定めるとともに、要件面でも現状の業務水準確保と、各部門が要求する業務内容が簡単に記載されているにすぎず、パートナーとなる開発業者に実装方法については委ねられていました。

著作権の面でもIT業界のビジネスモデルを覆すもので、特に著作権については開発業者にあるものの、ソフトウェアの一部について改変権及び複製権を市側に与えるというのは大変なハードルです。もっとも、今後5年、10年を考えると、IT業界のビジネスモデルは従来のままではありえないでしょう。

行政分野のITにおける日韓の違い

今回は韓国系のIT事業者が参画しましたが、日韓での言語の問題だけでなく、開発方法論の違いも大きな苦労でした。ただし、見習うべき点が非常に多かったのも事実で、何より韓国の優れている点としては、「やってみること」を大切にする姿勢でした。

最近日本の政府関係者も韓国の電子政府をよく視察しますが、実は韓国政府も日本政府を視察に来て勉強しています。ではどこが違うかというと、日本からの視察の場合、優れたものを学んでも、日本で適用できないとあきらめてしまいがちですが、韓国からの視察は、その成果を自国ですぐ試してみる点が素晴らしいです。

3.行政サービスの鍵を握るのは「人」

よく、講演や外部の関係者と話す際に、「あなたは自分の住民票がどこのベンダーが作ったシステムにより発行されているか知っていますか」「住民票を発行するのにコストがどのくらいかかっているか知っていますか」と聞くことにしています。というのも、江南区の例でも分かるように、地方自治サービスの前提は、市民に関心があることだからです。まずは、自分の住む自治体と行政サービスを知ろうとすることが全ての原点ですね。

一方、内部人材の育成に当たっては、システムそのものを理解することより、業務を理解することがより重要です。これまで、人材育成については2年ほどかけてコミュニケーション能力と業務分析能力を中心にじっくり進めてきました。システムありきでなく、BPRの観点から、個別業務についてどこが無駄か、どこが見直すべきかを指摘、理解することのできる人材こそが、結果的によりよいIT導入、利活用に繋がるからなのです。また、改革意欲を持ち続けること、自分のミッションに真摯に立ち向かうことも必要条件です。

4.今後の重点取り組みとしての自治体間連携

自治体単独での課題解決が困難な時代

現在の行政が抱える課題が多岐に渡る一方で、異なる自治体が同じような課題を抱えて悩んでいるといったことも珍しくありません。

浦添市による行政サービスへのITの積極活用は、単に浦添市の内部のみを向いているわけでなく、全国の自治体が互いに情報や仕組みを共有することで、単独では解決できなかった課題を解決しようという姿勢の表れでもあります。

他の自治体にもオープンにしていく

浦添市では、ITに関する自らの知見や仕組みを他の自治体にもオープンに展開していきたいと考えています。というのも、これからのITの進展を見ると、IT業界はクラウドビジネスの方向に向かっていくでしょう。こうしたクラウド化を自治体に当てはめてみると、クラウドは、標準的な仕様に基づいたものを全国レベルで構築した上で、あとは地元の各自治体が、それぞれの要件に合わせてカスタマイズを地元事業者育成も兼ねて行っていくというのが自然ではないでしょうか。

浦添市の場合、地理上の関係もあり、特に九州内の自治体に対してはオープンにしていきたいと思っております。必要な場合には浦添市としても協力を惜しみません。

システムの共同運用

また、中長期的には、全地域で連合体のような仕組みを作ったうえで、共同運用するようになれば、財政難に苦しむ自治体にとっても非常に助かる話ではないでしょうか。国の会合等で浦添市の考えや取り組み内容を説明した後には、他の自治体から複数の問い合わせを受けることがよくあります。従来、自治体は内部で全て自己完結していたため、他の自治体との接点は一般に思われている以上に少ないものです。中でもIT活用はその最たるものでしたが、今後こうしたシステムの共同運用を機に、壁が取り払われることを望んでいます。

ノウハウの共有

システムの共同運用を進めようとすれば、業務の進め方もできるだけ共通化、標準化されることが必要となります。そこで、市では今回業務マニュアルを作成しました。

この業務マニュアルは単に職員が読むだけではなくて、ITを生かして書き込んだり、写真を挿入することができたりするのが特色です。こうした取り組みの狙いは、マニュアルという共通言語を通して、庁内のシステム部門と業務部門が一対一の関係を築こうというものでした。

今後は、自治体間でこうした業務マニュアルを見せ合うことができれば、互いのノウハウや経験上の知見などの共有を通じて、システムの導入経費も削減することができるようになります。最初は大変ですが、こうした取り組みは、参加自治体数が増えるほど効率化効果も大きくなります。

ITサービスも地方の独立性を重視してほしい

こうした共同化やオープン化の考えは、東京一極集中になりがちな日本のITサービス業界への警鐘でもあります。今後は、東京に拠点を置く大手企業であっても、対自治体のサービス提供にあたっては、地域の独立性を重視して、地場企業の育成や、自治体間連携による課題の解決といった取り組みに、よりフォーカスをあてていただきたいですね。


【2009年4月 執筆・編集:株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータ経営研究所】

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